甲陽園のツマガリ本店、ある日のこと。
工房に用事があったので、私が３階から階段をトント〜ンッと降りてくると、二階のカブトヤマ（喫茶店です）のマダムがにっこり。

「こんにちは」
「いいお天気で」

短い秋がスッと消えてしまったような天気が続いたあとのポカポカ陽気だったので、思わず出てしまった天気ネタ・・・。
１階までくると、本店左横の通路で言い争う男女の声。ただならぬ空気なのです。
思わず壁にピタッと身を寄せ聞き耳を立ててしまったワタクシ。

「ロールケーキだからこそ、意外性でコーヒー味がいいんだ」
「素直にショコラ味の方が、ぜったいウケます！」
「ショコラーデン・ブッター・ルーラーデって、名前長いだろ？」
「文句があるんだったら、シャチョーに言いなさいよ」

最近つきあい始めたと噂の若い職人たちが、ロールケーキのことでもめているようです。おもしろそうなので、そのまま壁に張り付くことに。頭のなかで「ミッション・インポッシブル」が大音量で流れています。心臓もバクバクと・・・。

「安井さんだって、そのまんまチョコ食べてるみたいだったって」
「いつまでもチョコチョコって、だからおまえは子供だって言うんだ」
「ガナッシュの存在感ガッツリで、口溶けもいいって」
「ガトーロマノフのブランデーの方がキタッ！て感じだ」
「バタークリームも効いてるんだから」
「うちのなんだから、当たり前だろ！」

「だからおまえは※▲○×↓ｗ★・・・」

え、なに？いまなんて言ったの？

「そんなとこがいいって言ったじゃない・・・」

なんだか急に甘えた声に変わったと思ったら、何も聞こえなくなりました。

「・・・」

ん？ん？聞こえない。え、え〜？
見つかってもいい、どうなってもいいからどうなってるか見ておきたい。あとでどんなに非難されてもいいから〜！
そぉ〜っと壁から身を離し、片目だけ通路に出すと、カメラいっぱいに広がった大っきなシャチョーのまあるい顔、顔、顔。

その瞬間、目が覚めました。
「どっちもおいしいんだって」
ボソッとつぶやくワタクシ。
その朝は、少しにんまりしながらの通勤になりました。
階段をあがるとき・・・ちょっとだけ通路を見ましたが、若い二人がいるはずもなく・・・

もうすぐ、メリークリスマス。
あの二人にも、いいことがありますように。
もちろん、あなたにも。

今月号のメルマガでどちらをご紹介しようかと悩んでいたので、こんな夢を見たのでしょう。 ショコラーデン・ブッター・ルーラーデ　VS　ガトーロマノフ。どちらも甲乙つけがたく、お客さまからの感想だってどちらも上々。す、すみません、今月はこれにて失礼。